きみたちは、何のために生きているのかね?
お受験して一流校入って、上場企業や霞が関の1種公務員になるため。
そうしたら何か?いいことがあるのかね?
「雇用が安定している」
「住宅ローンが一発で通る」
「社会的な地位もあって、いいお嫁さんがくる」
……うーん、多分この程度しかないよな。目標というか、価値が。
一流校入って、東大出て、モールの清掃作業の仕事に自ら進んで就職する人は……いないよな。
なぜかな?
モールの清掃作業とゴールドマンサックスの投資銀行で一流のポジション張ってスーツ着てかっこつける仕事とどっちがいいのかね?
いやあ、そりゃゴールドマンサックスです。
なぜ?
「きれいだから?」
「掃除もきれいにする仕事だよ」
「いやあ、自分は汚れちゃうじゃないですか?」
「でも、ゴールドマンサックスで金融犯罪したら人生汚れちゃうよ」
「それと、これは違う」
「何が違うのかね?」
……という問いを……あなたはしていますか?
それに対する「納得がいく答え」「解」を自分で見いだせていますか?
二人の会話に戻ります。
「だってゴールマンサックスに行ったら、5000億円のお金を動かして大儲けして、自分の年収も1億円ぐらいもらえますよ」
「そうか。で、キミは5000億円のお金を動かしたのかい?」
「はい。動かしていますよ」
「それで、儲かったのかな?」
「今年は500億円もうけましたが、来年はわからないです」
「儲からなかったらどうなるのかな?」
「投資銀行の世界は儲からない人は即座にクビです」
「なるほど」
「でも、それまでもらったお金があるから、一生食べて暮らせます」
だったら、一流校行って、東大を出てゴールドマンサックスに行く人生の目標の価値はあるのかな?
「ほんとうにそうかな?」
「さあ」
……たぶん、ほとんどの人は……この辺で思考停止するんだよね。もっと考えたほうがいいよ。
「あなたの投資銀行の成果で、泣いている人、一家が破滅した人もいるかもね」
「そりゃ、ビジネスですから、得する人としない人がいて当たり前です」
「そうか。その人たちは、あなたのことをどう思っているのだろうか?」
「憎んだりうらんでいるかもしれません」
「そう。それはいいことだろうか?」
「よくないですね。でも、知られなければいいじゃないですか」
え?くたびれた?でも、自分の仕事についてこういう思考を続けることは大事だよ。
「じゃあ、モールで清掃の仕事をする人を考えてみよう」
「清掃の仕事なんて、単純作業で、自分は汚れるし臭いし、汚いものも見ないといけないし、給料も安いし……どこがいいのですか?」
「そうか。でも、5000億円動かすようなことはしないよね?」
「するわけないです。」
「ということは、泣いている人、一家が破滅した人は生み出さないよね」
「まあ、起きないんじゃないですか」
「清掃って人が嫌がる仕事だと、キミは思っているよね」
「はい」
「でも、自分は汚れるけど、人にはきれいな場所を見て喜んでもらえるよね」
「そうですね」
「自分は汚れるけど、人は幸せにするよね」
「はい。」
「何人幸せにできるかな」
「そりゃ、モールですから1日数万人くるかもしれませんね」
「そう、じゃあ、悪い仕事なのかね?」
「いやあ、自分の仕事で1日数万人幸せにできるなら、それはいい仕事ではないですか?」
「金融犯罪もしなくていいんだよね」
「ないです。だって雑巾でふいたり、床を掃除したり、ゴミを捨てるだけですから」
「投資銀行の仕事は、休めるのかい」
「そりゃ、休みたければいくらでも休めますが、そんな暇はないですよ。年中、夜中も相場や為替を調べたり、突然の事件にも対応しないといけないし」
「掃除の仕事は、決まった時間で帰って、仕事のことは特に考えなくてもいいよね」
「そうですね。家に帰って仕事のことで悩む必要はあまりなさそうですね」
「だったら、メンタル的にはいいよね」
「はい。」
「それに、体を動かす仕事は自動的にバランスのいい運動にもなるよ。給料をもらってスポクラ行く必要がないなんて、すばらしくないかい?」
「そうですね。うちらは、高いお金払ってスポクラ行かないと運動しないし。コスト面で見たらお得ですね。ストレスでメンタルや胃が痛くなる人も多いですし。」
「で、モールと、キミの仕事とどっちがずっと続きそうかね?」
「うーん、うちらの世界は短期勝負ですね。長くずっとやれる人は見たことがないです。モールの清掃は……モールがある限りずっとですね」
「年齢は?」
「投資銀行なんて老人じゃつとまりませんよ。だから早くやめて顧問や会社の役員になるとかしなければ……」
「そうしたら、モールの清掃の仕事は、同じ仕事をずっと続けられて、自分の時間もできて、多くの人を幸せやよかったと思わせてあげられる仕事なんだろうね」
「でも、給料低いですよ」
「給料が高いと、何がいいのかな?」
「そりゃ、豪華なマンションに住んで、豪邸買えるし、ホテルも最高級、飛行機もファーストクラスに乗れます。1回1万円のフレンチを毎日食べられます」
「豪華なマンションに住むと何がいいのかね?」
「そりゃ、人にえばれるじゃないですか?俺はウォーターフロントの最上階に住んでいる」って。
「人にえばって賞賛されるのがいいのかね?」
「え?違うんですか?あなたはそう思わないのですか?」
「確かに、一度言われたいと思うことはあるね。でも、賞賛されても何も収入が増えるわけでもないし。」
「たしかにそうですね。自己満足ですね」
「自己満足というのは、自分で満足を決められるよね?」
「そうですね。だから自己満足です」
「だったら、満足のメニューを変えれば別にその必要はないよね」
「言われて見ればたしかに」
「それに、豪華なマンションに住んだら金目当ての強盗に自分や家族も狙われるよね。」
「そのとおり。だからセキュリティにお金をかけないと」
「お金かかるだけだね」
「その分稼げばいいんですよ」
「自分のためにでなくて、セキュリティ会社の売り上げのためにね?」
「鋭いですね。確かにそうです。自分のためになるようでなってないですね」
「だったら、意味ないんじゃないか?」
「うーん、投資銀行で胃を切るようなストレスでがんばって、実は自分でなくセキュリティ会社を食わせるだけだった……東大出た頭脳の自分がそんな基本的なポイントに気づかなかったです」
「最高級のホテルに泊まっていいことがあるのかね?」
「それは、ホスピタリティあふれるサービスにゴージャスな室内とムード」
「それ、ホテルにお金払わなくても、自分でアマゾンで買えば作れるだろ?」
「いやあ、確かにそうですね。」
「君は、どこの誰が何を入れたかわからない食材の料理を1万円出して食べるのと、愛する妻が君の健康と好みを考えて1万円の材料で作ってもらった料理のどちらがおいしいかね?」
「即答できます。妻の料理です」
「じゃあ、豪華ホテルはいらないじゃないか?」
「そのとおりです。いりません。家を豪華ホテルのように仕上げれば十分です」
「飛行機のファーストクラスに乗れるのがいいのかね?」
「そりゃ、サービスがいいですし。優雅な気分に」
「飛行機っていつ落ちるかわからないし、確率的にはどうかね?」
「そりゃ、過去の事故の統計では飛行機は最も安全な交通手段です。でも、自分がどうかと言われると、50%じゃないですか?落ちる、落ちない」
「そうだろう。50%の確率で死ぬかもしれない乗り物に乗って何かいいことあるのかね?」
「いやあ、できたら乗らないほうがいいですね」
「じゃあ、意味ないね」
「たしかに」
「となると、そのお金がいっぱいあっても、いいかといわれると、そこまでいい話もあるようでないね」
「むしろ、投資銀行の仕事して徹夜で家に帰らないで体壊したり、家族とも十分会って遊んだり話せないほうが問題ではないかな?」
「はい。そうですね。私も毎晩ハイヤーで帰っていますが、家族とはすれ違いだし、子供も何をしているかわからないし」
「じゃあ、モールの掃除をして毎日定時で帰って奥さんの手作りの晩御飯を食べて、家族と団らんする暮らしが毎日のほうがいいかな」
「そうですねえ。そう考えると……モールの清掃の仕事も悪くないですね。しょっちゅう転職やおびえなくても済むし」
「で、掃除の仕事と投資銀行の仕事、究極にはどちらが必要かね?」
「そりゃ、投資銀行の仕事はお金があるから成り立つけど、実生活で必要なのは掃除ですよね。ゴミの家に誰も住みたくない」
「答え出たんじゃないの?」
「あ、わかりました。一流校入って東大でて、さんざん勉強して思考した結果が……」