ごめんな。アホスターばかり相手にしているので、疲れる。たまには俺にハイレベルな芸術の話をさせてくれ。いいよ、わかる人だけで。
この話読んで、わかる人は……いつか、俺と芸術論で飲み明かそう。
私の話し相手になってくれていたのは、東京芸大の教授とか、作曲家とか、音大の特待生のピアニストぐらい。そういう人は私と芸術の話をして楽しくて帰らない。
現代のピアニストで、まあ、よかったかなと思えたのはピョートル=アンデゼフスキぐらいだったけど、まあ、彼はできる人だよ。ヴァージンレコードの会長に好かれただけのことはある。
でもだ、私がいいなと思って聴くピアニストは以下しかない。
・ギーゼギング
これにサンソン=フランソワぐらいかな。だいたいそれぐらいになってしまう。
晩年がいいよね。ショパンの「幻想ポロネーズ」「幻想即興曲」ただずっと聞いているとホロヴィッツの世界は疲れてくる。完璧すぎるのかな。
ホロヴィッツはラフマニノフと友達だったのかな。同じ天才なんだけど、ホロヴィッツも最初は作曲家になろうと思ったが、自分にそっちの才能はないと自覚してピアニストに専念した。でも、それは間違っていないよね。
ホロヴィッツの音は、力使っていないのに、全然ダイナミックレンジが広いし、指も回っている。なのに、最近彼の演奏シーンを動画でみているけど、全然楽に弾いている。彼の手は私の手よりはるかに大きい。だからスケールをつかめる。で、彼は鍵盤に指を置いたら、鍵盤を押すだけなのだ。この弾き方でちゃんと音が出る。
とても勉強になる。世間の芸大生やピアニストは「ギャンギャン、力まかせ」に弾いている。あれでは腕がダメになる。実際に腕がダメになる人が多い。
実はピアノって、工学的なてこの原理でアクションがつくられているので、本当はいかに少ない力で大きな音が出せるか……という機械なのだが、勘違いした人はピアノは力がないと弾けないと……それが悲劇を生む。
力だけで弾いている人は、破綻する。
でも、ホロヴィッツは80代の老人でも関係なく弾いている。早いスケールも弾いている。なぜなら、早いスケールも別にマイクロ秒で早いわけではない。そんなスケールを弾いていたら音としても気分悪い。なめらかに鍵盤を押して行けばちゃんと余韻と響きのある音階は出る。それをホロヴィッツは見せている。
ホロヴィッツの演奏はとても勉強になる。
ドイツの正統派。バックハウスはベートーベンの弟子のチェルニーの弟子なんだよ。すごいよね。生きた化石だった。ショパンはホロヴィッツのほうがいいけど、ベートーベンやシューベルトはピカ一だね。ベートーベンの曲はまるでベートーベン自身が生きていたらこう弾くだろうな……自演したかのような再現性を出す。
ベーゼンドルファを愛する。自分もピアノはベーゼンドルファが好きだ。スタインウェイは好きではない。
実は私の誕生日の7月5日に彼は死んだ。スイスで。私が幼少期に母がかけていたレコードの中にシューベルトの即興曲Op142-2がある。私が自分のテーマにしている曲なのだが、実はバックハウスも死ぬ前にこの曲をアンコールで弾いて死んでいた。
ずいぶん偶然というか、神がかりだと思っている。
なので、自分はバックハウスの転生かなと思う時があるし、彼が大好きだし、演奏もまねるようにしている。
ルーマニアの天才。30代で死んでしまった。でも彼のショパン、特にバッハの「主よ人の望みの喜びよ」という曲があるけど、知っているかい?
いい曲だよね。この曲は、マイラ=ヘスという女性ピアニストが編曲して弾いたものが始まりだけど、彼女の演奏も聴いたが、リパッティの演奏のほうがぜんぜんすばらしい。
リパッティの音は「ポーン、ポーンって音が潤いがあって、頭にすごく響くんだよね。」琴線をうつ、イマジネーションと抒情に人の心や感情をゆさぶる弾き方をする。
まったく天才だよ。
■ギーゼギング
ギーゼギングも天才だね。彼のすごいのは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番だね。アムステルダム=コンセルトヘボウ管弦楽団で、指揮はメンゲルベルク。メンゲルベルクがまた天才なんだが、その二人でまったくすばらしいラフマニノフを演奏している。ずっと聴いているね。
なので、自分の場合、他のピアニストは興味ない。聴くけど、たいしたことないよ。私が聴きたいと思う日本人ピアニスト誰もいないね……でも、それが日本のピアニストのレベルだということ。しかたない。
■サンソン=フランソワ
フランソワはフランスのピアニストの代表……というのはウソ。純粋フランスは実際はつまらない。マジメだね。フランソワはアウトローなの。先生がコルトーだったけど、コルトーよりいいと思うよ。コルトーいいかな?いやあ???
でも、この人も30代で死んじゃったよ。思うに、天才ピアニストとか作曲家って30代で死ぬよな。
ショパンが生きていたらどんな演奏をしていたのだろうか。
聴いてみたい。自動ピアノの譜面がある時代だと、その人自身の演奏がけっこう忠実に再現できている。ラフマニノフがそうだ。
聴いてみるとラフマニノフはピアニストとしても上手だった。ちょっと大振りだけどね。
ショパンは「バッハを弾いてスケールの練習をする」といっていた。
実は練習曲より、バッハを弾いている方が練習になると思う。
ドイツが誇る、世界的な大ピアニストのバックハウスも、練習はシンプルだったようで「音階を弾いていた」という。
なので、実はスケールの音階を弾くって、ラジオ体操みたいに大事なことだ。
自分もそうしている。