「Wの悲劇」を観てから、「時をかける少女」「さびしんぼう」で大林宜彦の映画を連日観ている。今日は「廃市」を観た。
福岡県柳川市の水郷地帯をノスタルジックに描いた、渋い、いい作品だ。気に入っている。大林監督がスタッフの休暇を使って、最低限のスタッフとキャストでたったの12日間で全部撮影して完成させたという。
それなのに、ずいぶん、味のある映画となっている。
原作が福永武彦の小説で、その世界を「映像化したらこうだろうな」見事に描いている。
旧家のお嬢さんがヒロインだが、いいねえ。いわゆる「清楚な、いいとこのお嬢さん」で。最近は、こういういでたちの女性がなくなった。ワンピースやツーピースのスカートで、足先までびしっときれいにまとめたコーディネイト。
小林聡美が演じるのだけど、観ていたら顔の感じが秋篠宮眞子に似ているので複雑な気持ちになった。まあ、そこそこかわいいといえば、かわいいんだな。
自分が生まれ育った時代は女子と言うと「触るのもはばかれる、清潔でエレガントさ」が漂っていた。だから恋愛もなんか「なかなかキスまでいけない」という、もどかしいものがあった。
ましてや、今みたいに先生が女生徒に手をだしまくっていたり、小中学生でスマホで援助交際とか……めちゃくちゃな時代ではなかった。
女性の気品・清潔感があったので、男は乱暴だけどいっぽうでは女性をかばう……そういう時代だね。
今は、スカートをはいて清楚で凛として清潔感にあふれた姿の女性はホント見なくなった。女性はパンツはいて男と変わらなくなった。
みんなユニクロになってしまった(泣)人民服。
それで、なんか出てくる俳優がけっこうすごくて驚きだ。家長の老母の人がまるで、大名か公家なのかな……というご立派なシチュエーション、特に話し方が上品で「この人なんだろう?」と思っていたら、元皇族で女優の入江たか子。
さらに、心中してしまう兄の愛人の女性役が娘の入江若葉。
旧家に、卒論を書くために居候する学生に、お嬢さんが、礼儀正しくもてなす。
布団をきちんと敷いてあげて、茶の湯で抹茶をたてて「お菓子をどうぞ」と……清楚なお嬢さんがにっこりして、こういうことされたら、私もよろけちゃうぐらいのシーンですね。
今どき、こんな娘や家……ないよ(笑)
文科省はこういう教育、家庭にしろよ。
あと、来た客に、家人らはきちんと会話して街を案内してくれたり、お話し相手をしてくれる……いいよね。
でも、お嬢さんは山下規介が演じる学生に実はほのかに恋していて、彼がどこかに行くと必ず一緒に寄り添ってつきあう……この距離感がいい。「あー、今の援助交際の、会ったら即ホテル」の時代と大違いだな……。ちなみに山下はジェームス三木の息子。この映画、メンツが豪華。
「好き」とは口から言わないのだが「好きなの」って表現されているシーンがいいよね。
ほんと、今の時代「情緒」がないよ。
でも、その「淡い愛情表現」が悲劇を生むというのが……この小説の骨子なんだよね。
2人姉妹の旧家は後継ぎができず、婿(むこ)を入れ、ヒロインの女性の姉と結婚する。だが、婿は本妻たる姉より、妹のほうが好きになり、かわいがるようになる。
この婿役は峰岸徹。いい味出しているね。女にもてそうな、おとなしめで理知的に話すいい感じの男を見事に演じている。こりゃ女3人にモテるわ。
この辺のシチュエーションもいい。だから姉妹の家に行くとき、姉妹でお互いの彼氏をとられないように……という「女のバトル」が、よく描かれている。
現実社会でも、見合いだろうが、恋愛だろうが、姉がせっかくできた彼氏を連れて家に紹介に帰ったら、応対して出てきた妹の方がかわいくて彼氏がそっちに一目ぼれし「姉を捨てて妹が食われる」ということは多いので……ご注意を。
これは、どうして起きるかというと、姉は彼氏をもらってしまうと「保守」になるのでかえって弱くなるんだ。浮気の人間は「自由」なので「強くなる」「無責任に気楽に攻撃できる」こういうこと。
この姉は、美人なんだけど「気が弱い」。実は自分にコンプレックスがあって、自分が美人でこの男性を占有して行けるという自信がないわけ。
その弱さで、逆におてんばで活発な妹にとられそうになる。
だが、婿入りした男からすると、家長の母、姉妹……女だらけの家の重圧に「逃げ出したく」なるわけだ。
男って大変なんだよ。婿入りは。プライド失うから。どうしても気が弱くなる。
やっぱ、貧乏でも婿入りせず自分で家を守って「自分が嫁と子供を守る」って突っ張って生きていた方が、男はイイんだよ。
今、日本の田舎では一人っ子も多く「家が崩壊」してしまうゆえ、娘の家に「お婿さん来てよ」という家庭も結構多い。
だけど、いくら女性側の家でウェルカムしても、外からやってくる男性は、その時点で「敵陣亡命」なので弱いわな。
なので、映画に出てくる旧家の家も「あえぐ」わけだが、自分たちの思いと別にせっかく迎えた婿さんは「ムリムリ」「逃げ出す」というわけである。
そうやって、ヒロインのお嬢さんがぼやく「この街は、終わってる田舎」……その退廃、まさに「廃市」の渦が「ゴボゴボゴボ」という映画中に時折流れる、「効果音」で見事に表現されているのである。
都会から来た学生は、最初は、出迎える素敵なお嬢さん、風光明媚な柳川市の水郷地帯の光景に「田舎っていいですね」と「自分も住もうかな」って……今の田舎ブームの気持ちになるわけ。
でも、地元民の宴会に出たり、地元民に溶け込むにつれ「だからみんな田舎を捨てて都会に行くんだ」という「現実」を実感し始める。
だんだん、よさげに見えていた「旧家」は実は「運気が悪い蟻地獄の館」だという真実を知っていくわけである。
あ、これは俺の文学評論としての「解釈」ね。当たってるかな?あなたなりの「読み解き」してみてね。
さて、男子学生は、婿の男と会ったとき、姉を捨てて同棲している愛人の女性の存在を知る。学生は婿が「私は姉が好きです」という言葉と逆に、本当に好きなのは愛人の女性だという真実を見抜いて、そのことを言ってしまう。
この時、婿の男性を陰で静かに支えて、彼の面倒をみている愛人女性が、入江若葉なのだが、彼女のいでたちや、ふるまいも、また「昔の日本女性」みたいな、よさです。
で、私も婿の男性を楽屋でいたわる彼女の顔の表情を観たとき、とても幸せそうな瞳と表情をしている場面を観て「ああ、この二人は実は愛しあっているのだな」……と、わかるわけです。入江若葉の演技いいですね。
学生に真を見抜かれた後、婿は愛人と心中してしまいます。つまり、兄は形では姉を愛していると言い張っていたが、実は死ぬことで愛人と「あの世で」結ばれる道を選んだわけです。
不倫は、今も昔も正当化されない公序良俗に反した行為です。したら家も追い出され、村八分……江戸時代では死罪でした。
それゆえ、愛をとるなら、命がけ……。
ただ、これがまた傑作で、姉は死んだ夫の遺体の前で「裏切り」を知ることになる。でも、その怒りの矛先は残された兄が好いていた妹に向けられる。
姉は夫が自分を愛していないことを、ごまかすため「私は、妹が幸せになればいいと思って彼の妹への気持ちを認めていた」と取り繕う。
かっこよさげに見えるけど……負けてます。
いっぽうで妹は「私は、旧家のこの家を守るため自分が犠牲になって、愛人に彼がとられるより自分を慰めものにしてもらい引き留めることで姉のためにしたのだ」
と……これまた、言い訳をして、姉と妹は兄の棺の前で大ゲンカを始めます。
いやあ、なかなか、見苦しい、恋愛憎悪が繰り広げられます。
それを目の当たりにして、学生の男は、急に「シューン」と上も下も萎えて冷めてしまいます。
……そういうことでしょ?
「だめだ、この家、この田舎の街」
それが、男子学生が知った「真実」でした。
「俺も、逃げよう」
幸い、卒論は書き上げられ……学生は旧家を離れました。ヒロインのお嬢さんは彼をさびしそうに駅まで送ります。
駅や港での男と女のわかれのシーンって……映画ですごくいい光景ですね。巻き戻しができないから。真剣勝負の場所です。
ここで、お嬢さんは「行かないで」と口では言えないけど、笑顔で終始します。
「また、来るよ」
悟った男は、お嬢さんにリップサービスで言います。
「いや、あなたはもう来ないです。大学を出たら会社に入って結婚して。こんな街のことはすっかりお忘れになるわ。それがあなたの未来よ。」
お嬢さんは、わざと男を突き放したように言います。
「あなたの未来は?」男はまだ気づきません。
「こんな、死んだ街には未来なんかないのよ」(私をここから助けて!)
これ、サン=テグジュペリの「星の王子様」でバラが王子様に、さんざん嫌味を浴びせかけ、すねる光景と一緒です。
でも、この男もバカですね。お嬢さんに言われて「そうですか」だけで、気づかないんですよね。女の心を。
「好きなのよ。あなたのことが」
彼女はそう言っているのです。女の人は相手が好きだと、わざと相手をいじめたり、なじったりします。でも、それは「私にふりむいて」という女ごころです。
でも、たいていの男性はわかりませんから「なんだ、俺が嫌いなのか?」と逆にとります。むしろ心が離れてしまうことが多い。
いや……実はわかってるんだけど「俺はここにはいたくないわ。ゴメン」って気遣っているのかもしれないね(これだと、ギャグになって雰囲気ぶちこわしだな)
いずれにせよ、この辺の鈍感さは……みずがめ座の男性に多いので、多分、主人公の男子学生もみずがめ座の男でしょう。
そこで、いたたまれなくなった従者の男(尾身としのり)が、走り出す列車の窓にかけよって大声で叫びます。
「この町では、みんなが思うとる人にちっとも気付いてもらえんとですよ!なおゆきさん(婿)も。あんたも安子さんを好いとる」
この映画で尾身としのりは、ほとんど声を出しません。それがこの最後で光ります。
グサッと来る瞬間ですね。
でも、時すでに遅しで電車は走り去ってしまいます。彼女の姿もどんどん小さくなって消える。
そして、お嬢さんの言った通り男性はこの街には戻らなかった。やがて街が火事で燃えてしまったニュースを聞いて、この思い出を回想する。
という話でした。
■この映画で学ぶ、恋愛と婚活の傾向と対策
私は、結婚相談、恋愛カウンセラーもしてきたので、この名作映画に、私たちは何を学べばいいか?書いておきます。
まあ、まず、お嬢さんが間違ったのは、姉夫婦の不倫のもめごとに、せっかくの彼氏を巻き込んだことですね。「うちはこうなの」と本人は良かれと思ったことが、初めて彼女を知る彼氏にはマイナスにしかなりませんでした。
もし、彼女が彼氏を姉夫婦から離して「隔離」していれば、彼女はできた、いいお嬢さんなので、すんなり恋愛が進んでゴールイン。彼氏も「これだけの旧家の跡継ぎになれれば田舎でやるのもいいな」と思ったかもしれません。
そうでなくとも、彼氏が東京でサラリーマンになって暮らせば一緒に都会生活ができてルンルンだったと思います。
ということなので、やっぱ、私も男性、女性両方から相談受けてアドバイスするのですが「自分の不都合な真実」は、「結婚してから相当年数たっていうぐらいがよくて、最初から言ったからいいわけでもない」
「むしろ、過去の恋愛体験を今の彼女や彼氏に言うことは本人には誠実だと思っても、実は相手にはどうでもいいことであり、言わないほうがいい。胸にそっとしまっておいてください」
相手にとっても、今の自分たちの関係や生活が大事なので。そちらをぶち壊すような話は一切しないことです。
とアドバイスしますね。
もし、お嬢さんが私のアドバイスを事前に受けていたら、彼は電車を降りてUターンして「安子さーん」って走って彼女のもとに戻っていく……ラストに変わったと思います。
なんか、自分はそっちのエンディングのほうがいいですね。