いやあ、すっかり大林宜彦の映画を連日見ているが、いいね。
見た後、じわーっと幸せな気持ちが何日も続きますね。
なんでですかね?大林映画って別にハリウッドようなVFXもないし、激しいアクションも、展開もないですけど。映画のほとんどはゆるい流れのシーンばかりなのに。
昨夜は「異人たちとの夏」を観ました。夏のお盆にふさわしい、大人のロマンスとなんちゃってホラーですね。ホラー要素はムリしていらなかった気もします。
主人公の40代の離婚したばかりの作家の男(風間杜夫)と、12歳の時に亡くなった両親の片岡鶴太郎、秋吉久美子のお父さんとお母さんがなんともいえない味を出してます。
映画は、妻と離婚してボロボロになった作家の男が住むマンションの部屋に、ある夜、下の階に住む美人の若い女性が「シャンパン飲みませんか」と押しかけてくるところから始まります。男は誘惑よりも気持ち悪さでいったんは断ります。
そして、男は仕事ででかけた地下鉄構内の見学で迷って、ふと夜の浅草の街中に出ていきます。そこで通りすがりの父親に声をかけられ、昭和40年代の自分の親が暮らしているアパートに招待されます。そこには、きれいな昭和の天然色の服装に身を包んだお母さんが笑顔でいます。アパートも典型的な昭和の貧しいけどこぎれいな室内です。
そこで、男はお父さんとキャッチボールしてお酒を飲んだり、お母さんの手作りの料理や、子供の面倒をみるように、体をふいてくれたり、ついたゴミをとってくれる母親に、もう会いたくてたまらず、毎日のように通うことになります。
でも、それは両親の霊であって、幻影です。会えば会うほど、男はゾンビのように精気を吸い取られ自分も死にかかっていきます。
男は、部屋におしかけてきた美人の隣人と恋人になります。でも、一緒に寝ても「絶対前を見ないで」と懇願されます。
男は、離婚の傷心から、新たな彼女と、なつかしい両親とも会えて日々元気になったと自分では思います。
でも、ある日、彼女から「もう両親には会わないほうがいい、顔がひどいことになっている」と言われます。
男は意を決して、両親の霊と幻影に別れに行きます。最後の晩餐に浅草の今半のすき焼きをごちそうします。でも、「あの世に行ったら肉を食べても味がわからないんだ」と言われます。そして、両親は男の目の前で姿が消えていきます。
そして、マンションに戻って彼女とまた一緒に暮らそうとするのですが、彼女は凄惨な自殺を遂げた霊で、その本性を現します。駆け付けた後輩の助けで女の霊も飛び去り、男は一命をとりとめます。
すべての霊はひと夏のお盆を終えあの世に帰り、男は亡き両親のアパート跡で線香をたいて立ち去ります。
いやあ、これ、泣いちゃいましたよ。
だって、男が最後、浅草の今半に両親を連れて行き、高級なすきやきを御馳走している前で、はじめて本当に言いたかったことを伝え悔やむシーンがあります。
「お父さん」
「お前はいい息子だよ」お父さんは言います。
「そうだよ」お母さんも言います。
「僕は、お父さんたちが言ってくれるような人間じゃない。
いい亭主でもなかったし、いい父親でもなかった。お父さんやお母さんのほうがどれほど立派か知れやしない。
あたたかくて、おどろいたよ。こういう親にならなくちゃって
僕なんて親孝行面しているけど、お父さんたちがずっと生きていたら、どうかわからない。ロクな仕事もしてこなかったし、目先の競争心で……」
「何もいうなよ。もう何もいうな」お父さんは語りかけます。
「あんたをね、自慢に思っているよ」お母さんは言います。
「そうともね、自分をいじめることはねぇ
てめぇで、てめぇを大事にしないで、誰が大事にするもんか」
そして、両親は「もう行かねば」と体が消えだします。
その時、男は初めて、本当に言いたかったことを言います。
「ありがとう。どうもありがとう。ありがとうございました」
そして泣き崩れます。
両親はあの世に戻って消えました。
これ見たとき、お父さんって、息子や娘には「何気ない存在」「母親がいればいいだろう」と思われちゃうんですけど、それゆえ、家庭でのお父さんはとかく大事にされません。
でも、この映画でお父さんは、息子には口うるさく説教しません。学があるインテリの息子と違ってお父さんは、江戸っ子のすし職人です。
お父さんができるのは、大人になった息子と、道端でキャッチボールして遊ぶことです。
たった……それだけの存在なのに……息子にはとても大きな存在なんです。それが、血のつながった実の父「大黒柱」の本当の意味です。
でも、今の世の中は、すぐ離婚して、妻はこの「大黒柱」を「斧でたたき切って」しまう。
その犠牲が、子供たちだということを……気づかないのです。
まあ、この映画は「お父さんって何?」って本質を見事に表現しています。
そして大人になって、ほとんどの人は……田舎の両親をおいて、都会がよくて、あるいは両親が嫌で出てきている人もいっぱいいると思います。
地方から東京や都会に行き、大学を出ていい会社や役所に入って、外面もよくて、プライドも高くて……こぎれいな都会のマンションで暮らす。でも、そうやって「かっこつけて」生きてきた人の「虚構」「虚飾」を取り去った、素直な自分。
それを一番理解してくれるのは……実の親ですね。
そういう親をあなたは、普段、けむたがっていませんか?
あなたは、この映画の男のように……
「お父さん、お母さん、ごめんなさい」
「お父さん、お母さん、ありがとう」
ってきちんと面と向かって親に言えるかな。言えないでしょうね。
けれど、何も言い訳せずに、もし、言えたら、あなたはきっと幸せになれると思います。