大林映画、ほんといいです。世の中があまりにも腐っておかしいので、清純で抒情的な映画を見ているとこちらの世界にいたくなりますね。
この「はるか、ノスタルジィ」は小樽を舞台にしています。私ももし、東京でない地方都市に住むなら小樽か福岡がいいなと思っていた時期があります。
小樽はちょっとヨーロッパ的な感覚がありますよね。
大林映画を見続けていて気付くのは、大林さんはクリスチャンでなく多分、実家も仏教なので「輪廻転生」がストーリーにいつも盛り込まれています。
今回は、50代の作家の男性が小樽で突然、高校生の女性にぬかるみで転んだところを助けてもらい出会う所からスタートします。
大林さんもちょっとロリってるのかな?と宮崎駿みたいな感じがしますけど、まあ、それは我慢して観ていきます。
それで、作家の男性は自分の小説のファンでもある石田ひかりが演じるはるかと小樽デートをしていきます。でも、いやらしくなくていいです。
勝野洋が、落ち着いていい男をホント演じています。
見ていて「はっ」とするのは、石田ひかりを大林監督が大好きみたいで、彼女をほんときれいに撮ることです。彼女の「にこっ」という振り向きざまの笑顔や、服装も清純でよくあっていて、小樽の街や草原の景色……すべてが幻想的なショットで埋め尽くされ、もう「どの場面を観ていても小説の挿絵の水彩画の景色」なんです。
この美しさは瀬戸内の尾道とはまた違ったもので、ヨーロピアンな印象を受けます。
イタリアや地中海の街の感じがしますね。
もちろん、大林監督だけでなくカメラスタッフも一流の人がスタッフで多いと思います。私も写真やったけど「この構図、背景と人物どうやってベストポジションで撮ったのだろう?」「さりげなく通るダンプやバスも意図的に通したのかな?」そう思いながら観ていました。
「草原や、降り注ぐ太陽の影と、本人のしゃべりや表情」がすごくあっているのです。
絵の切り取り方が上手です。
冒頭の「人生には、忘れてはならないことある。それを記憶し苦しみ続けることだけが、贖罪になる、そういうこともある。」
なんか渋い……オトナの恋愛の話ですね。
これが全体を流れるテーマですね。かつての50代の男性が高校生だった時の幻影の自分が目の前に現れます。
お父さんは飲んだくれの作家くずれ。お母さんは遊郭で売春する売春婦だったのです。
そんな高校生だった自分は夜の公園で出会った少女を好きになります。
でも、あるとき母に暴力をふるう父親の姿にいたたまれなくなり、街をさまよいます。たどりついたのは母親が働いている遊郭街です。
そこで、泥酔している父が手をかけようとからんでいたのが自分が好きな少女でした。少女は売春宿に逃げ込みます。あの子も売春婦だったのか?彼は幻滅します。
そして、彼は彼女をそういう女性だと思い込んだまま、別れ、今に生きていました。
でも、今小樽で一緒にデートしているその子はかつて好きだったその子の生き写しだったのです。
小樽の滞在を最後にしたとき、彼は少女と結ばれます。でも、そのとき、自分が彼女を売春婦だと思い込んで、その「幻影」に苦しんでいた自分が間違っていたことに気づくわけです。過去の恋愛の誤解をといてすがすがしい気持ちになった男は東京に戻ります。
そうやって、月日ながれ、老人になった男は再び小樽を訪れます。そこには、かつて自分が好きだった女性の娘がいました。
それで、彼女に自分の書いた小説をプレゼントして終わります。
ここが、毎度の「輪廻転生」ですね。なんか大林監督のラストは温かい心や気持ちになって見ていて元気になるんです。
今のドラマや映画にはないです。
観ていたら、「あー」と思っているうちに終わっちゃうわけですが2時間以上ある大作です。
でも、短く感じてしまう。
テーマに流れるショパンのピアノ協奏曲第1番が、少し自分的には「無理して流さなくてもいいかな」と思ったのですが、大林監督がショパン好きで、多分、この方は絵や小説やピアノ演奏、ポエムなどなんでもこなせる……マルチ作家だということがわかります。
インテリアのセンスとか、よくて毎度映画の家の情景が「自分の家みたいにしたかったんだろうな」と。アップライトピアノと楽譜が必ず置いてある部屋なんですよね。
そこに、毎度、お母さん役が、めちゃ和服美人で登場するのがおもしろいです。きっと監督のお母さんがそういう感じだったのかなと。
大林監督のお母さんは裏千家の茶道の先生だったそうなので、わかる気もします。
この映画は50代以上のオジサンにはえらい受けてるようです。まあ、だれもがそう思う時がありますよね。「あの頃に戻ってかわいい女の子とデートしたいなあ」って。
今は、世間の恋愛もLINEですぐ会って、すぐホテルとかアホみたいな時代になりましたけど。
「また、明日朝9時にホテルで」という、スマホや携帯なしでの約束。
次会うまでの時間連絡がとれないけど……お互いの気持ちがあるということを信じていられる……いい関係だよね。
カフェでずっと相手が来るのを待っている……「来るかな」「来ないかな」……ドキドキしますね。
なんか、いい時代だったのかなと……思います。
で、今どきの若い人とか、その辺の人にはこの大林映画……またつまらないのかな。
駄作にされちゃうのかな。
悲しいです。